at 8th september @ YOKOHAMA ARENA

 

 また今年も雨。振り返ってみれば過去3年、開催日が悪天候に見舞われている。 これがもし一般的な夏の野外フェスだとすればかなりツイてないと言える。 でもWIREとっては関係ない。むしろ悪天候である方がフロアーに降り立った時の喜びが大きいのかもしれない。 巨大なアリーナ空間に一歩足を踏み入れれば、そこには外界とは隔絶された極上な「空間」が待ち受けているからだ。 自分の背丈の10倍はあろうかと思われるPAから繰り出される内蔵をも揺さぶるビート。 通常の狭いクラブとは比べものにならないくらいの空間に飛び交うレーザー光。 そしてそれらに導かれ渦巻く1万6千人ものクラウドの歓喜、狂喜。エナジー。 それらは個々によって異なるもの。そこには1万6千通りの楽しみが存在している。 極上な空間で音と戯れ、光にまみれ、そして自らがその更に極上な空間を創りだしてゆく。幸福の相乗効果 。 オールナイト、夕刻6時から翌朝6時までのこの12時間、そんな幸福な体験のできる場所。踊り狂える空間。 踊り狂わずにはいられない空気がそこには渦巻いている。

 

 

 一昨年、第一回目のWIRE99の時は横浜アリーナの正面 玄関を埋め尽くす黒山の人だかりに驚いたものだ。 去年は正面玄関前では収まりきらず、アリーナのぐるりに並んで入場するのにも随分かかった。 そして今年はそれを更に上回る人手であることは会場最寄りの新横浜駅を降りたときからわかった。 駅のロッカーに荷物一式を詰め込み、首にタオルを巻き付けている数人組の若者。 彼らが着ているTシャツには「WIRE00」のロゴや、 比較的、というかかなり地味目なビジネス街新横浜ではまず見かけることのなさそうな奇抜なデザインのものが目立つ。 そしてそうした人種が会場のアリーナに近づくにつれ見る見るうちに増殖を始める。 会場近くのコンビニはそんなパーティー・ピープルたちでレジは大混雑。すでにビールを片手に乾杯している人もちらほら。いい感じだ。 もう待ちきれないといった雰囲気が会場1時間前にはアリーナ界隈を渦巻いている。 去年の事もあるし、折角早く来たんだから並んでおこうと缶ビール片手に去年同様アリーナの周囲に沿ってできていた人の列の後ろに並ぶ。 「今年こそはトップバッターのDJタサカをたっぷり楽しみたいなぁ」なんてしばらく並んでいたら実はこの列は当日券狙いの人の列だと判明。 じゃあチケット持ってる人は?ふと目に新横浜駅に続く屋根付き歩道橋に群がる人の群れが。急いでその列に並び替える。 そしてその列は開場直前には延々駅まで伸びる長蛇の列になった。 その直後激しいにわか雨が降り、6時を少しまわり雨が小降りになった頃、次第に入場を待つ列が動き出した。パーティーが始まった。

 

  エントランスから会場内にはいると既にアリーナ内からはパンピンでぶっといグルーヴが鳴り響いていた。 スクラッチも絡み、いかにもなタサカのプレイだ。急いでクロークに荷物を預けフロアーへ。 入り口でいかつい黒人のセキュリティーによるボディーチェックをうけ、いよいよ音と光の空間へ。 この瞬間がたまらない。目の前に広がる空間、浴びせかかる音。音。音。いやがおうにもテンションが上がる。 そしてタサカのDJも去年同様素晴らしかった。 さすがパーティーってモノをよく心得ていらっしゃる、ツボを押さえたプレイで会場を早くもヒートアップ。 続いてはWIRE初の女性DJ、モニカ・クルーゼ。 以前来日したときもその容姿からは想像できないくらいハードなプレイで度肝を抜かれたが、今回も相変わらずハード。 タサカのDJがカラフルなディスコティック・サウンドだったのに比べるとグッとダークなジャーマンテクノを中心に、自身の曲を織り交ぜ更にフロアーをヒートアップさせる。

  DJブースの反対側にあるライヴ・ステージに炎が灯った。オランダはロッテルダムからの使者、シークレット・シネマのライヴが始まる。 ロッテルダムというとどうしてもガバのイメージが湧いてしまうのだが、ガバではない、むしろもう一つのオランダを象徴するサウンド、パーカッシブでバウンシーなハウスビートをヘビィにしたような心地よい、ストレートなテクノサウンドを聴かせてくれた。 極めてシンプルで少々無機質でベタな印象も受けるが、それもまた気持ちいい。 そしてシンプルながら最後はしっかりと沸点にまでオーディエンスを盛り上げる。そして田中フミヤのDJへバトンタッチ。 卓球、ウェストバムと共に3年連続皆勤賞、しかも2年連続トリをつとめたフミヤがこの時間に登場。 だからだろうか一昨年、去年と比べ若干抑えめのプレイだったがいつもと変わらないフミヤ節炸裂。 間断なく刻まれるタイトなこのグルーヴは世界を見回してもフミヤにしか出せないものだ。 今までアッパー一辺倒だったフロアーに心地よい酩酊感覚が広がる。

 フミヤのDJも佳境に入ってきた頃、周りに人が増え始めた。そう、次は電気グルーヴのライヴだ。 例年、電気のライヴは人でごった返すのでなるべくライヴ・ステージには近づかないようにしていたが、気が付けばライブステージのすぐ脇のブロックのスピーカーの前で踊り狂っていたため期せずして間近で観ることとなった。 電気グルーヴを紹介するラジオの声やロボ声などが交錯するコラージュサウンドが鳴り響く中、ロシア帽+Mrマリックサングラス+地肌に革ジャン+レザーホットパンツ姿のピエール瀧登場。 真横から観ているため腹が出っ張っているのがよく見える。 指に仕込んだレーザーを手持ちのミラーボールに当て拡散させるというパフォーマンスの中、 「フラッシュバック・ディスコ」「スコーピオン」「エジソン電」「WIRE,WIRELESS」と以上4曲、これまた濃い曲が渾然一体となって怒濤のように流れるというすさまじいライヴ。 WIREのライヴとしては過去最高のものであったと思う。

 続いてウェストバムの登場だ。3年連続で電気のライヴの後を引き継ぐことになる。 日本にいて大箱でバムのプレイが堪能できるのもWIREの魅力の一つ。ライティングが一層派手になり、いよいよパーティーも本番と言った感じになってきた。 去年にも増して派手なプレイ、そして去年同様最後はDJブースから飛び出しフロアーへと飛び降りるなどアクションでもフロアーを湧かせる。 今年もベストアクトの呼び声高いパフォーマンスであった。 そのテンションを受け継ぎウラル13ディクテイターズが登場。 個人的に大好きなアーティストなので期待していたのだが・・・途中音が止まるなど機材トラブルが連発。 曲間のつなぎなどもバラバラでお世辞にも良いライブとは言えない出来だった。

 

 

 ウラルにすっかり下げられたテンションを再び沸点にまで高めたのはこのパーティーの発起人、石野卓球。 ブレイキンなイントロから一気にもっていかれるプレイは流石だ。 最近ではゲイパーティーでのプレイもするだけあり踊りたい人のツボを押さえたプレイはまさに貫禄のといった印象すら受ける。 卓球に続いて登場のCJボーランド。 日本でライヴは初らしいが以前、1996年にレインボウ2000での来日DJを聴いた時はハッキリ言って古めかしいトランスといった印象が強く、それ以来彼の作品をまともに聴くこともなかったのだが、今回のライヴを観てそれを後悔することになる。 明らかに進化したソリッドなグルーヴがサウンドシステムから炸裂。 ともすれば退屈になりがちなテクノのライヴをMCを前面 に押し出すことによって見事にオーディエンスとのコミュニケーションをとりながら盛り上げていく。 MCとの絡みではリズムマシンをリアルタイムで打ちまるでロックバンドのようだ。 期待どころかラインナップされていることにすら疑問を感じていたCJの初ライヴは結果 的にWIRE01ベストライヴアクトとなった。 そしてヘル。去年のベストアクトに挙げる人も多いであろう、2年連続で出演となったドイツはミュンヘンのジゴロ。 バラード調の曲から始まった今年のプレイは去年のハードさを期待した人にとってはいささか物足りなさを感じたかもしれないが、実にヘルらしいというか、自身のレーベル「ジゴロ」のテイストを十二分に堪能させてくれるプレイであった。

 午前4時半。ヘルからバトンを受け取ったのはそう、ジェフミルズだ。大箱では滅多に回さないと言われているジェフのDJが今年のWIREのトリを飾る。 ストリングス・サウンドが響き渡ったかと思うと徐々に奥から硬く激しいビートが迫ってきた。 そしてそこから1時間半、1万数千人のクラウドは何かに取り憑かれたように踊り狂う。 横浜アリーナだろうがマニアック・ラブだろうが、ジェフのDJは変わらなかった。 リズムマシンTR-909をレコードに合わせて走らせるスタイルになってからのジェフのプレイは初体験だったが、 以前のような逆回転やスクラッチなどの派手な技こそ少なくなったものの、相変わらず無駄 のない完璧なDJプレイ。 後日CS放送で見たジェフのDJの手さばきは常人とは思えぬ 速さだった。 クライマックスでDJローランドの「ジャガー」やWIRE01コンピレーションにも収録されているジェフの最近の作品では珍しくストレートなハードトラック「UFO」がスピンされるとフロアのテンションは頂点に。 そして午前6時、アンコールで再び「UFO」をスピンし今年のWIREは幕を閉じた。

 

 今年は参加者の多さにも驚いたが、それ以上にみんなパーティーを楽しんでいること、 そしてそんなパーティーを愛しているということがひしひしと伝わってきた。 3年目にして早くも日本を代表するレイヴへとなったWIRE。それを支え、そして発展させて行くのはこの愛あるパーティーピープルなのだ。

 

 

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